フェイス
「そこまでにしろ、風音」


 彼女達の視線の先、響く声は一瞬、春平だと思った。

 だけど、朦朧としかけていた意識の中でもあまりにはっきりしていた。

 一番、来てほしくて、でも、一番来てほしくなかった男。


「それを知ってるのはお前だけでいい」


 私の手を掴んで引き起こしてくれる。


「わかるな?」


 格好つけたいこの男にとっては大変不名誉なこと。

 だから、知られたくないんだ。

 私はこの男を守らなければならなかった。

 そんな些細な秘密さえ本当は口にすべきじゃなかった。
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