フェイス
「何で……ここがわかったの?」


 問題はどうして、この男がここにいるのか。

 幻覚でも幻聴でもなくて、時永宗太郎がここにいる。


「こいつらのオトモダチを智也がしめた」


 時永は彼女達を睨んで答えた。

 だからって、どうして、来たのかって問い詰めたかったけど、できなかった。

 強く抱き締められた。

 汚いのに、でも、離れたくなくて、少しだけ痛くて、熱かった。


「あのさ、もうやめてくれねぇかな? 俺は気持ちに答えてやることはできねぇし、本当に大切な奴なんだ……多分、これ以上は俺も抑えられねぇから」


 時永のそんな声は私も聞いたことがなかった。

 下手に出ちゃいけないのに、人の上に立つ男じゃなきゃいけないのに。

 なのに、それは懇願に聞こえた。
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