フェイス
「時永君……」


 弱々しい斎藤先輩の声、混乱しているのが見えなくてもわかった。


「だから、俺が抑えてる内に消えてくれ。女は殴りたくない。たとえ、殺してやりたいほど憎くても」


 ぞっとした。

 私を突き放したあの時よりも冷たく感じた。

 思わず震えたのが伝わってしまったのだろう。

 ぎゅっと抱き締められて、何だか滑稽な気がした。

 この男が怖いのに、この男が優しい。
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