フェイス
「お前はその方がいいな」


 何これ、時永なのに時永じゃない。


「な、何よ?」


 慌ててボタンを留め直そうとしたけど、上手くいかない。


「やってやる」


 私は思わず伸びてきた手を振り払った。

 そうしたら、溜め息が聞こえた。


「あんまり暴れるな。痛むだろ?」


 自分で脱がせたくせに。

 しかも、何で妙に手早いのよ。


「こんなの、別に」


 なぜか私を真っすぐに見る時永の目は妙に優しくて、初めてこの男を見た時を思い出した。

 まだ私はこの男に恋をしている。

 今もこうして、もっと好きにさせられている。
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