フェイス
「強いわよ。春平よりも。そりゃあ、今日はちょっとうっかりしていたけど……」


 今も体が痛い。

 油断は弱さだけど、でも、そんなに弱くないと思いたかった。

 私の精一杯の強がり。


「俺が一番知ってる。お前は弱くしたのは俺だろうからな」


 時永の目は見透かすような輝きを持っていた。

 けど、私はそれから逃れるように必死に首を横に振った。


「違う。あなたが私を強くした」


 強くなろうと思ったのは全てこの人のため。


「ずっと後悔していた。あの時、お前を傷付けたこと。でも、お前が離れていかねぇからその状況に甘んじていた。いつか、お前がいなくなるんじゃないかって思いながら、それでも、縛り付けていたかった」


 優しい声、髪を撫でる指、ずっと夢を見ていた。

 まるで愛されているみたい。
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