フェイス
「お前が好きだ。いや、愛してる」


 時永は言った。

 嘘、私は呟いた。

 痛みで頭がおかしくなってる。

 きっと意識は幻想の中に堕ちている。


「嘘じゃない。何度でも言う。俺はお前しか見えない」


 頬が大きな手に包まれて、ぐいっと顔を向けさせられた。

 そして、唇に熱、あまりに真剣な表情。

 これは嘘じゃない。でも……


「好きになることはない、って言ったじゃない」


 幼かったけれど、あの時のことはまだ鮮明に覚えている。

 最初で唯一の失恋の記憶。

 主従の関係が終わり、友として側にいられても、それ以上にはなれないと思い知った苦い記憶。
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