フェイス
「俺もガキだったんだ。馬鹿げた照れ隠しの一つや二つもするさ。あの時はもう好きになってた。どうしようもないくらいに」

「そんなの……」

「時効にはならねぇか?」


 悲しげな声に翻弄されるのは、好きになり続けるしかできなかったから。

 酷い男だと思っても。

 従者以上にはなれないと思っても。

 惚れた弱みってこういうことなのかも。


「……もうなった。なかったことにしてあげる」


 これ以上、意地を張るなんて芸当は私にはできなかった。

 これは完璧な負け。


「さんきゅ、風音」


 時永が笑った。

 それに、私の名前を呼んだ……?

 ずっと呼んでくれなかったのに。
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