フェイス
 沈黙。嫌な沈黙が訪れた。

 私は時永が笑うと思っていた。


『やっぱり、馬鹿だな、お前は』


 いつものようにそう笑うはずだった。


「……ああ、そうだよ」


 信じられない肯定だった。


「てめぇら、基本馬鹿だから騙せると思ったのに、随分、早かったじゃねぇか。折角、解放されると思ったのに、な」


 肩を竦めて時永は笑う。

 いつもの笑い方とは違う、苦笑い。

 嫌な、本当に嫌な笑い方。
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