フェイス
「クビだ。もう二度と来なくていい。腕章も置いていけよ」


 早口に、時永は言った。

 それは私達が恐れていた言葉だった。

 だけど、聞くことなどないと思っていた。


「家から出てけとまでは言わねぇから安心しろ。俺もじじいには逆らえねぇからな」

「言いたいことはそれだけ?」

「もっと言ってほしいのか? てめぇとの関係が噂になるなんて虫酸が走る」


 問えば、冷たい視線が突き刺さる。

 その歪んだ表情には見覚えがあった。

 もう二度と見たくはない、見ることはないと思っていた。

 その表情の意味はわからない。


 私は腕章を外して近場に置き、そのまま早足で去った。

 わからなくて、苦しくて、悔しくて、悲しくて、逃げたかった。
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