フェイス
「あ、時永先輩」


 まりちゃんが指さした先にあの男はいた。

 “迷探偵ジャスミン”になる前に、気が逸れた。

 それは幸か不幸か私にはわからなかった。

 時永は大人しそうな女子と喋っていた。

 別に珍しいことじゃない。

 だって、あの男は女の子が大好きだし、特に何とも思わない。


「あいつ、嘘吐くのが下手すぎんだよ」


 ぼつりと春平が呟き、私も頷く。

 そう、あの男はつまらない嘘を吐いた。

 それが少しだけ悲しかった。

 虫唾が走ると言われたことじゃない。

 それはまた別の話だから。


 はっきりと言ってくれればよかった。

 そうすれば私も早く馬鹿な甘えを捨てられたかもしれないのに。
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