Seven Colors
第一章 契約
草木も眠る丑三つ時。
町が闇と静寂に包まれ、幽霊が動き出そうとするその時間。
灼熱の炎が町を駆ける。
そこでは、眠りに落ちた町の様子とはあまりにも似合わない逃走劇が繰り広げられていた。
「現在少年は三丁目二番地を逃走中! 四丁目一番地に向かうもよう!」
「はい、こちら四丁目一番地、少年がこちらに向――うわっ!」
「おい、どうした!」
缶バッチつきのニット帽に学ランの少年は、スケートボードに乗り町を暴走していた。
文字通り暴走である。少年が乗っているスケートボードには噴射口があり、煙を放出している。炎を動源力として走っているため、バイク並のスピードが出るわけだ。行く手を塞ぐ者を誰ひとりとして許さず暴走する。
鋭く釣り上がった瞳は紅に光り、視界に入った万物を容赦なく睨みつける。その迫力は日々犯罪と立ち向かう警察をも怯ませる程である。
それは正しく牙を剥く猛獣。猛獣に拳銃を突き付けたところで大人しく手を挙げるものか。
「ったく、役に立たない」
風が強く吹く警察署前。
トランシーバーを通じて二人の警官のやり取りを聞いていた男は、苛立ちの言葉を吐き捨てた。
スーツを身にまとい、髪を一つに束ねた男、黒王(コクオウ)。トランシーバーをスーツの内ポケットにしまい、黒王はバイクに飛び乗った。
深く刻まれた眉間のシワは到底伸びそうにない。
後ろから追ってくる人物の存在に気付き、ふとため息をつく。
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