ビター・スイート・ラヴ
 由香も夫の出世を喜んでいない訳ではないが、咄嗟に真紀と別れなければ
ならないという思いが頭を巡り、正直どうしていいのか分からなくなった。



 真紀とのことは誰にも打明けていない。当然、普通の不倫じゃないのだか
ら‥。相手が男性ならまだしも真紀は女性だ。おまけに自分は結婚していて
夫のある身で、友人らは到底、理解する筈もない。



 そんな戸惑った様子の由香を見ながら浩輔はこう切り出した。



「まだはっきり決まった訳じゃないし、もし、あまり気が進まないのなら、
最初の数ヶ月は俺一人で行ってもかまわないよ」


「そういう訳じゃないんだけど。急な話しだったから‥」


「まあ、無理もないよな。言われた当の本人だって心の準備ができてないん
だから。まだ本決まりってわけじゃないし」




 その後、お互い気まずくなって、テレビのお笑いタレントのくだらないコ
ントをぼんやり眺めた。



 日曜日は久し振りに、浩輔と郊外にある大型ショッピングモールに出掛け
た。お互い口には出さずにいるけど完全に見えない壁が二人の間にできてし
まった。



 由香は浩輔に訊かれないように、小さくため息をついた。
< 148 / 206 >

この作品をシェア

pagetop