ビター・スイート・ラヴ

　私の目の前の肩を落とし座っている顔色の冴えない男は一体、誰なんだろ
う、と由香は混乱する頭で考えを巡らせた。



　さっきまでコーヒーとトーストを一緒に食べてた男。由香はささくれた
心を落ち着かせる為に深呼吸をひとつしてから言葉を口にした。



「いきなり一方的になんなのよ、私の立場も考えてよ！以前から愛人がいて
その愛人に子供ができたから別れてほしいですって！　バカにするのもいい
加減にしなさいよ‥」



　由香は冷静さを失い声を荒げてしまったことに、自信が一番驚いている。



　女性の存在は薄々気づいていたが、まさか子まで成すとは‥。しかし、
お互い愛情を感じなくなった今となっては当然の結果かもしれない。



　しばらく二人の間に不穏な空気が流れた。



　その沈黙を破るようにして浩輔が話し始めた。



「由香にはできるだけのことはするつもりでいる。来年、春には海外に赴任
することになるから、君にこのマンションを譲渡するつもりだ。もちろん、
慰謝料も払う。ただ‥彼女が本当に産むかどうかはっきりしてないんだ」


「会社の人は、このことを知ってるの？」