ビター・スイート・ラヴ
「俺はなんてバカな奴なんだ」と悔やんでみても、由香はこの家に戻る
つもりはないらしい。



 その上、あさみまで自分の元を去ってしまうとは‥。



 しかし、そんな感傷に浸っている場合じゃないと自分にいいきかせた。



 昼間、連絡をしそびれた、あさみの実家に電話をいれてみた。数回の呼び
出し音のあとに、年配の女性が電話口に出た。



「はい、今井でございますが」


「夜分に大変申し訳ございません。東和商事 資材部の藤野と申しますが、
今井あさみさんはご在宅でしょうか?」


「はあ、会社の方ですか? いつも、あさみがお世話になっております」



 丁寧な応答があった。多分、あさみの母親なのだろう。



「実は仕事のことで、ちょっと尋ねたい用件がありまして。自宅マンション
に連絡してみたのですが留守のようでして、それで失礼とは思いましたが、
こちらに連絡させていただきました」
< 199 / 206 >

この作品をシェア

pagetop