ビター・スイート・ラヴ
「ほんとうに慰謝料なんていらないから」



 由香はかぶりを振って何度も言ってみたが、浩輔は頑として受けつけな
かった。



 彼は今春、中国に転勤する。数年間は向こうで暮らすことになるので、
自宅マンションは友人に貸すつもりでいる、と言っていた。



「彼女も一緒に行くの?」



 由香がなにげに訊いてみた。




「向こうで落ち着いたら呼び寄せるつもりでいる」




 浩輔は罰悪そうに照れながら応えた。



 しばらく、二人の間に沈黙が流れた。



 由香は言い知れぬ淋しさを感じた。



 別れ際に浩輔が右手を差し出し握手を求めてきた。由香もそれに応じた。
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