ビター・スイート・ラヴ
 そういえば一番印象に残っているのは、夏祭りでのことだった。



 ミチルは確か浴衣を着て髪を結い上げ、かなり大人びて見えた。自分は
といえば髪は短く、Tシャツに色褪せたジーパン姿、おまけにゴム草履と
いう格好だったと思う。



 ミチルと仲良く手を繋ぎ、夜店を見て回った。



 小腹が減ったので、たこ焼きを買うことにした。その時、店のおじさんが
私とミチルを交互に見るなり「おっ、お似合いのカップルだね!」と言って
冷やかしたことを思い出す。



 真紀は顔から火がでるくらい恥ずかしく、そそくさとその場を立ち去った
ように思う。



 私は男に間違えられた。嫌な気分じゃなかった。むしろ、嬉しかった。
封印していたはずのいろいろな思いが、これをきっかけに自分の内に湧き
起ってきた。



 どうして自分は男に生まれなかったのか‥。



 小さい頃から好きになるのは女性ばかり。男になりたい。そして皆の前で
堂々とミチルを彼女だと紹介したい。



 そういう思いが心の中でぐるぐる巡った。
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