イノセント・ラヴァー *もう一度、キミと*
(……ひどいこと言っちゃった)


自分も何も知らないくせに、ね。


この後に起きるリーマン・ショックや派遣切りのことを知ってたから、何とか警告を与えたかったのかもしれない。

現に彼は、だるそうに本屋のバイトをしてたしね。


「……そんなこと言われても、オレ何の才能もねぇよ」

「そんなことないよ」


あたしは明るく言った。


「人間ってね、すでに得てるものは案外見えないものなんだ。

他の人から見るとうらやむような才能でも、本人にとっては当たり前すぎて、見えなかったりするものだよ」

「……」

「自分になくて人にあるものを見ないで、自分自身を見てみて。

大丈夫、あなたはたくさんのものをすでに持ってるはずだよ」


あたしは本心からそう言った。


「お金がないから、とか、才能がないから、とか言い訳してないで……

……自分はどうしたいのか。自分にとって一番大事なものは何か。

そういったことを、頭じゃなくて心で感じてね。

頭でごちゃごちゃ考えていることに、たいてい真実はないから」

「……」
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