イノセント・ラヴァー *もう一度、キミと*
カサ。


(……?)


どれくらい泣いたかわからない。

泣き疲れて呆然としていたあたしの耳に、かすかな足音が飛び込んだ。

川の流れる音の間に、かすかに。


でも、振り返る気力もなかった。


足音は、少しずつ近づいてくる。




やがて。


控えめに掛けられた低い声に。

あたしははっと顔を上げた。


「……泣かないで、ミソラ」


(……え?)


のろのろと振り返ると。


黒い服に身を包んだ、見覚えのあるすらりとした姿がそこにあった。

思わずみとれてしまうような、整った顔。
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