イノセント・ラヴァー *もう一度、キミと*
あたしがおそるおそる父親は誰かと聞いたら、寂しそうに微笑んで言ったっけ。


「もう別れちゃったから。

でも、別れるなら最後にもう一度、ってお願いしたの。

そのときにできた子なんだ」


たかだか10歳のあたしには刺激の強すぎる話で。

目を白黒させるあたしを、面白そうに見てたっけ。


「そんなにその人が好きなの?」

「……うん。

すっごくかっこいい人なんだもん」


別れるのに子どもがほしいなんて、あたしには理解の及ばない話だったけど。


(美咲姉ちゃんは、すっごく純粋だったのかもしれないな)


いくら好きだからって、結婚もしないのに子どもなんか作ったら、あとあと苦労するだけなのに。

そういう計算も働かないくらい、純粋だったんだね、きっと。


うちは共働きだし、あたしも学校があるわで、拓海は6ヶ月からずっと保育所通い。

いつしか、拓海は保育園の送り迎えをするあたしを「ママ」と呼ぶようになってた。
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