六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
あたしはその影に後ろから抱きすくめられ、口を手で塞がれてしまったのだ。
指が五本ある、人間の手。
現実感があるだけ、幽霊や獣よりよっぽど恐ろしい。
「んーーーっ!!」
もがこうとすると、耳元で影が囁いた。
「命が惜しければ、静かにしろ!」
高くも低くもないけど、クセのある特徴的な声。
やっぱり、男の人だ……!!
草がちくちくと刺さる足が、震えだす。
まさか、そんな。
犯罪といったら、一年に一回泥棒があるかないかのこの町に、通り魔がいたなんて!!
誕生日に殺される!!
そんなのやだやだやだ!!
あたしは引っ張られなかった右手に、まだかろうじて握っていたスタンガンを思い出した。
スイッチみたいな冷たいでっぱりが指に当たる。
あたしはスタンガンを相手の腕にあて、思い切ってスイッチを押した。