六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
整った顔にメガネをかけたその人が薄く微笑むと、
後部座席にいたサングラスをかけたスーツ姿の男の人がドアを開けてくれた。
助かった……!
そう思った時だった。
「安城まりあだな」
「……えっ?」
不意に、名前を呼ばれた。
知らないはずの人に。
サングラスのかかった顔は目が見えなくて。
恐怖を感じたが、遅かった。
一歩後ずさったあたしの左腕は、またもやひっぱられてしまう。
「や……っ」
この車に乗っちゃダメだ。
頭の中で、何かが警鐘を鳴らす。
しかし、あたしを引っ張る力は、やはり強くて。
雨でぬかるむ足元に力が入らなくて、もうダメかと思った。
その時。
「そいつを離せ!!」
さっき耳元で聞いた、クセのある声が背後から響いた。