六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
許嫁って、婚約者って事だよね!?
衝撃で頭の中が白くなる。
そんなあたしに、瑛さんはボソリと言った。
「今時あり得ないだろう。
親が勝手に決めた縁談なんて」
「……へ?
親が勝手に……?」
「と言うか、族長が勝手に決めた」
「じゃあ……
その人の事は、好きじゃないんですか?」
うっかり聞いてしまうと、瑛さんは首をかしげた。
「……考えた事もない」
「えぇ……
自分のお嫁さんになるのに……」
「嫁も仕事も他の運命も、
俺が自分で決められる事なんかないからな。
受け入れる事が自然だったから、考えた事もなかった」
瑛さんは、ぼんやりと遠くの月を見上げる。
その横顔はとても綺麗だったけど……とても、儚くもあった。
何も言えなくて見つめていたら、突然その顔がこちらにむいて。
ドクン、と心臓がはね上がる。
形の良い唇が、言葉を紡いだ。