六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】


「俺の事見てよ……。

弟じゃなく、男として」


「でも……!」


あなたは、あたしの弟なのに。


ずっと変わらないと信じてたのに。


「……頼む……」


「……太一……離して……」


「いやだ……」


涙が溢れてきてしまった。


太一の今までの苦しさが伝わってきて、何も言えない。


「ずっと、姉ちゃんだけを見てきたんだ。

ずっと……」


「…………」


「何より大事にするから……!」


ほんの少し、胸の間に空間ができて。


解放してくれるのかと思ったのに。


見上げたあたしの唇に、太一は乱暴に自らの唇を押し付けてきた。


「……!!」


もがいても、びくともしない。


苦しくて、両手の拳で太一の胸を叩く。


すると太一は、唇を解放してくれた。


しかし大きな手は、あたしの背中を黒髪ごとつかんだまま離さない。


< 276 / 691 >

この作品をシェア

pagetop