六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】


隣、と言ってももう一つの窓際にはりついていた瑛さんが、

小さく伸びをした。


太一は後ろの座席に横になっている。


留衣さんの家の運転手さんも、運転席で寝ていた。


「……ひどい顔だな。

寝てないのか」


「眠れなくて……」


「…………」


瑛さんは、自分の近くのカーテンを、指で少しだけよけた。


「……まだ早い。

今からでも寝ておけ」


確かに、空はまだ紫色だった。


「そうですね、そう思ってるんですけど」


「……眠れない、か」


「はぁ……」


そりゃそうでしょうよ。

友達が敵に捕まってるんだから。


そんなあたしの顔を見て、瑛さんは呟いた。


「……お前のせいじゃない」


「……はい?」


「清良がさらわれたのは、お前のせいじゃない。

他の誰のせいでもない。

遅かれ早かれ、衝突する事はわかっていただろう?」


「…………」


「だから……あまり、気に病むな」


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