六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
「良いですよ。
貴女が私のものになってくれるなら」
伊奈は口の片端だけを上げて笑う。
すると瑛さんがあたしを庇うように前に出て言った。
「こんな無体を強いておいて、よく言う。
姫との話は、済んでいるはずだ」
「そうでした。
前に、断られましたね」
この国の女神となり、未来を導いてほしい。
ただし、私達の言う通りに。
そんな伊奈達の提案を飲むわけにはいかない。
「こんな事をしたのには、理由があります。
夢見姫に、もう一度話を聞いて欲しかったのです」
「何回言ったって同じだ!
姉ちゃんをお前なんかに渡すか!」
「……黙りなさい」
噛みついた太一を、それまでなかった威圧感で黙らせる。
「私は、夢見姫と話をしたいのです」
そう言うと、伊奈はメガネを外した。
現れた瞳の色に、あたし達は息を飲む。
右目は黒いが、もう片方の目は、燃えるような紫色をしていた。