六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】


「良いですよ。

貴女が私のものになってくれるなら」


伊奈は口の片端だけを上げて笑う。


すると瑛さんがあたしを庇うように前に出て言った。


「こんな無体を強いておいて、よく言う。

姫との話は、済んでいるはずだ」


「そうでした。

前に、断られましたね」


この国の女神となり、未来を導いてほしい。


ただし、私達の言う通りに。


そんな伊奈達の提案を飲むわけにはいかない。


「こんな事をしたのには、理由があります。

夢見姫に、もう一度話を聞いて欲しかったのです」


「何回言ったって同じだ!

姉ちゃんをお前なんかに渡すか!」


「……黙りなさい」


噛みついた太一を、それまでなかった威圧感で黙らせる。


「私は、夢見姫と話をしたいのです」


そう言うと、伊奈はメガネを外した。


現れた瞳の色に、あたし達は息を飲む。


右目は黒いが、もう片方の目は、燃えるような紫色をしていた。


< 321 / 691 >

この作品をシェア

pagetop