六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
「何を見つけた?」
瑛さんはあたしの横で、資料に目を落とす。
ごく、冷静に。
朝の事なんか、何もなかったように。
「……良いんですか、琴さんを放っておいて……」
自分で言っておきながら、胸が苦しくなる。
瑛さんは資料の方を見たまま話した。
「もう帰った」
「えっ、早っ!」
「元々、そのつもりだったらしい。
今日中には帰ると、約束したんだと」
「へぇ……」
そりゃああんな綺麗な人がウロウロしてたら、
途端に男の人達に声をかけられちゃうもんね。
「知立家って……」
「星見の一族だ。
同じ村に住んでいる」
「へぇ……」
もう何を聞いても、「へぇ」しか言えない。
これ以上しゃべると、墓穴を掘りそうなので、黙る事にした。
聞いたら一応は答えてくれるけど、
瑛さんの口から彼女の事が語られるのが怖かった。