六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
「……なんで……」
やっと出た声は、カラカラにかすれていた。
瑛さんが、あたしを裏切った。
殺されるとわかっていて、それでも連れてきた。
それは本当にショックで、今にも涙が溢れそうだけど。
胸が潰れそうに痛いけれど。
「あたしは、なんで殺されなきゃいけないの?」
理由も知らずに、はいそうですかと殺されるわけにはいかない。
「なんで……なんのために?」
「その力を持って産まれたために」
「…………」
滋はあたしに近づき、顔をのぞきこむ。
紫色の瞳に自分が映ると、それだけで背中が震えた。
本能が感じる。
この男は、瑛さんより、伊奈より、
強い力と野心を持っていると……。
「夢見姫、そなたの力は私がもらう」
「……力を……」
「念じるだけで、奇跡を起こすその力を、
私の……一族のものにする」
その言葉は、伊奈よりずっとわかりやすかった。