六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
念じようとしたあたしの手を、瑛さんの手が握ってきた。
よほど痛いのかと思って、思わず思考が中断してしまう。
「いい、このままで」
意外な事に、瑛さんはそう言った。
「俺は、一度帰らなければ。
母が、まだ……」
また痛みが走ったのか、言葉が途切れてしまう。
「でも、その傷じゃ……!
瑛さん、傷だけでもふさぐから……!」
「いい、時間が、ない」
瑛さんは、息を吸い込んで立ち上がった。
翼が、また力を持ちはじめる。
もうそれは、あたしのものではなく、
彼のものになってしまったみたいに。
「あき……」
両足で立っているはずなのに、地面が揺れる。
今にも倒れそうなあたしを、瑛さんがいつものように腕で支えてくれた。
「もう……無理をするな」
それはこっちのセリフなのに。
紫色の瞳を見たら、言い返せなくなってしまった。