六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
皆がいない庭は、静かで。
終わりかけのひぐらしの声が、切なく響いた。
「……花火、見えますかね……?」
「……どうだかな。
見たければ、お前も行けば良かったのに」
「あたしが行ったら、寂しいくせに」
「はぁ?誰がだ」
そう言いながら、瑛さんは苦笑した。
並んで座る縁側には、麦茶を入れたコップが二つ、汗をかいている。
なんとなく……。
そう、なんとなく、あたしは口を開いた。
「……皆がいないうちに、
帰るつもりなんでしょう……?」
「…………」
「お別れとか、苦手そうですもんね」
「…………あぁ…………」
ぽん。
瑛さんの肩に、頭を傾けると。
背後から回された手が、そっと、髪の毛に触れた。
その細い指が、当然のように、優しく髪をなでる。
それだけで、泣きそうになった。