六花の翼〈リッカ ノ ツバサ〉【完】
「まりあ、君の名前は母がつけたものだ」
留衣さんは真剣な表情のまま言う。
「まりあ……マリアって、まさか……」
「そう。聖母マリア。
キリストを処女のまま産んだという伝説の女性だ」
まさか、自分の名前にそんな由来があったなんて。
ただ今時の可愛い名前を付けたかったと、安城のお母さんに聞いていたのに。
キリスト教の事はよく知らない。
美術の教科書で、『受胎告知』の絵を見ただけだ。
天使が聖母マリアに懐妊を告げる、あの絵。
「異教由来の名前を付けるなんてなんたる事と、反対されたんだけどね。
母は絶対、譲らなかった」
留衣さんの表情は穏やかだけど、
あたしの胸には暗い雲が立ち込めはじめる。
夢見姫は、家に閉じ籠り、処女のまま子を産む……。
誰か一人を愛し、その人のために念じる事は許されない。
あたしの不安を探りあてたように、留衣さんが口を開く。