シャクジの森で〜青龍の涙〜
「っ・・・ダメよ、ダメダメ。わたしったらいけないわ」
ぶんぶんと首を振って、見知らぬ女性に優しい瞳を向けてる像を急いで打ち消した。
知らない過去にヤキモチを焼いてしまうなんて―――
エミリーは外を眺めて心を落ち着けることにした。
すると、一筋の流れ星がきらきらとした余韻を残して消えて行くのが見える。
「メイとナミも、この夜景を見て心が落ち着いてるといいけれど・・・」
宿に着いて馬車から降り立った時、二人は真っ直ぐにエミリーの元に駆け付けてきた。
蒼白な顔色で、今にも泣き出しそうな表情で、開口一番言った言葉は“エミリー様、お怪我はありませんか!?”だった――――
「―――メイ!ナミ!良かった・・・二人とも、どこにも怪我はない?大丈夫なの?」
二人の手を握ってそう訊ねると、メイとナミは揃って安堵の息を吐いた。
「はい。私達は兵士様にお守りして頂きましたので、大丈夫です」
ちょっぴりふくよかな頬を青くしながらも、しっかりとナミは受け答える。
「エミリー様ぁ・・本当に、よく、ご無事で―――」
それとは反対に、メイは感極まってしまい、それ以上は言葉にならないようだった。
への字に曲がった唇はぷるぷると震え、空色の瞳には見る間に水がたまっていく。
賊に襲われた時も恐ろしかったけれど、それよりも、難所のがより怖かったと、涙ながらに語りはじめた。
「賊はアラン様やウォルター様達が蹴散らして下さると信じてましたから、何ともありませんでした。それよりも、そんなものよりも、どうにもならない自然の力の方が、怖いです~!」
エミリー様は、平気でしたか?と訊ねるので、眠ってしまっていたの、と答えると、メイは真面目な表情で力強くうんうんと頷いた。
「正解です!あんな恐ろしいことは、体験しないほうがいいです!帰りも、是非是非眠って下さい!」
と、涙を拭いながら力説していた。
けれど――――――
「―――そんなに、恐ろしいのかしら」
風が強く吹いて馬車が進まない、なんて、今ここにある景色からは想像もできないのだ。
ここも、絶えず風が吹いてはいるけれど。
「去年あった嵐よりも怖ろしいのかしら・・・」
「・・・エミリー、何を呟いておる?」