シャクジの森で〜青龍の涙〜
密かな会合がなされている、ぱっと見ボロい小屋から遠く離れ、こちらは外観も内装も美しき城の中。

四つある立派な離れのうち、一番城壁に近い場所にあるところ。

最上階の奥から二番目の、賓客にしては少し狭めの部屋。

ここがギディオン王国王子妃エミリーの部屋だ。


壁際には、藤で細工された飾りも素晴らしい調度品が並び、真ん中辺りには小さめの可愛い丸いテーブルと籐椅子がある。

その傍らにはシャルルの白い籠が置かれ、その向こうの窓に近い所には、セミダブルサイズ位のベッドがある。

その上には、こんもりとした大きな山と小さな山が、くっつくように、ひとつ――――



夜更け、アランは、ふと目覚めた。

暗い中、ブルーの瞳が無機質な天井から扉、そして窓の方へ油断なく動いて行く。


寝しなとは違う。

何か、違和感があるのだ。

賊が侵入したような・・・。


だが、部屋の中は何の異常も感じられず、耳に入るのは、吹き渡る夜風がカタカタと窓を揺らす音だけ。


気のせいか?


そう思いながら、アランは次に傍らを確認して、目を瞠った。



「・・・原因は、これか?」



当然のごとく、腕の中には静かな寝息をたてて眠る最愛の妃がいる。

クッションの上に惜し気もなく散らされた豊かな髪は、毛布の中でも艶々と輝き、まるで星の光が宿っているかのように美しい。

この髪は普段からこういう傾向があるが、それは月などの光源あってのこと。

今夜のような月の隠れた夜に、このように自発的に輝くとは、無意識に天使の気を放っているのだろうと思えた。

恐らく、何事かに呼応しているのだろう。

ならば、一体、何に――――?


アランがあらゆる可能性を考えつつ頭まですっぽりと覆いこむように毛布を被せ直していると、ちりんちりん、と鈴が鳴った。



「ニャ・・・ニャ・・」

「シャルルか。ん・・・少々待っておれ」



籠から出たいのだと判断し、アランがベッドサイドの灯りを点してエミリーの頭の下から腕を抜いて振り向くと、当のシャルルは既に籠から抜け出ていた。

緑色に光る二つの丸が、鈴の音と共にベッドに向かって一目散に近付いてくる。

ひらり、としなやかに飛び乗ってきた銀色の小さな体が、眠るエミリーの横に立った。
< 151 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop