シャクジの森で〜青龍の涙〜
「ニャニャ、ニャ!・・・ニャ!フゥーーーッ!!」



シャルルが、もくもくと近付き来るそれに向かって威嚇を始めた。

目と牙を剥き尻尾を立て手脚も伸ばして背を山のようにし、全身の毛を逆立てている。

最愛のご主人であるエミリーを守るため、必死だ。


腕の様なそれが、すぅ・・と、シャルルの面前に迫る。



「シャアァァァァ!!」



あらん限りの気迫を込めたシャルルの爪がそれを捉えた。

その刹那、白い塊がびくっと震え、同時にすーと引っ込み、モヤの動きも止まった。

・・・が。

それもつかの間、再び動き始める。

威嚇を続けるシャルルの体を飲みこみ、徐々に、眠るエミリーの方へ―――――



「っ、この、離せ・・・離せ――――離せ、と、申しておる!!」



アランの鬼気迫る迫力が、体を包むモヤの動きを止めた。

が、纏わりつくそれは変わらずに動きを封じたまま。

それでもアランは全身から気を放ち抗い続け、懸命に塊の呪縛から抜け出した。

再び動き出しモヤが覆い始めたベッドまで瞬時に移動し、大切な身体を毛布ごと腕の中に仕舞い込む。

シャルルはすでに塊の中だ。




「欲しくば、リンク王が子孫であるこの私を殺してからにせよ!だが、簡単にやられはせぬ!」




肩で息をしたまま、塊を睨みつける。


意思の核はどこにあるのか分からない。

言葉自体モヤに伝わるのかどうかも分からない。


だが、再び面前でエミリーを失うくらいならば、どんなことであれ自身が身代わりとなる。

その覚悟は常に持っている。


すると、毛布が、もぞもぞと動いた。

星のように輝く髪がふわりと零れ出ると、モヤの動きが加速した。


―――不味い。



「・・・ん・・アラン・・様・・?」

「駄目だ君は出てはならぬ」



早口で命じてすかさずズレた毛布を被せ、アランは抱く腕の力を強めた。

くぐもった声がし、苦しげにあがいてるのがわかる。

それでも、呼吸を確保させる程度にしか力を緩めることが出来ない。


モヤがエミリーを包む毛布に触れ始める。

それをアランの気迫が追い返す。


ベッドの上で静かな攻防が繰り返される。


―――パン!


突然、小さな破裂音がしたと同時に毛布の中から光りが溢れ出、モヤが弾かれるように大きく後退した。

ふるふると小刻みに震えていたそれは、ずるずると床を這うように外に向かいはじめた。

シャルルの体が現れ、暫く固まったように動かないでいたが、ハッと気付いたように動きだし、再びモヤに向かって威嚇を始めた。
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