シャクジの森で〜青龍の涙〜
午前中の柔らかな日が差し込む部屋の中で、エミリーは外出の支度をしていた。



「エミリー様、絶対に、私たちから離れないで下さいね」



ふんわりと結い上げた髪に仕上げのアクセサリーを付けながら、メイは真剣な声を出す。



「メイ先輩ったら。それでは逆ですわ。私たちが、エミリー様から離れてはいけないんです」



メイク道具をテキパキと仕舞いながら、ナミがきっぱりと訂正する。



「アラン様にキツ~く命じられているのですから、私たちが気を付けないといけませんわ。でないと、どんなお叱りが―――」



そう言いながらその時のことを思い出したのか、ナミのふくよかな身体がぶるっと震える。

それを受け、そう、そうだったわね・・と呟くメイもぶるっと震えた。

どうやら、アランは余程怖い顔をしていたよう。




「分かってるわ。離れないから安心して、メイ。ナミも、ありがとう。二人をとても頼りにしているわ」

「私たち、がんばります!」

「体を張って、必ず、守ります!ど~んと、お任せ下さい!」



決意を込めた拳を作る二人の表情は、真剣ながらも何だか雰囲気が華やいで見える。

やっぱりとても楽しみなのだろうと思えた。


それは、エミリーも―――――





『王子様が議にご出席の際、王子妃様には“都街の見物を是非”との仰せです』



朝食後に部屋でくつろいでいると、ビアンカからの使いが来た。

こちらを御確認くださいと差し出された書状には、予定がびっしり書き込まれていた。

中には、買い物の時間も組み込まれているようで。

アランがお留守の間は部屋の中で刺繍をしようと思っていたけれど、思わぬ提案にエミリーの心が躍った。



――――お出掛け出来る――――?



その時一緒にいたアランを見上げれば、とっても渋いお顔をしていた。

やっぱり、駄目なのだろうか。

真夜中の出来事からずっと、アランの様子がおかしいことには気付いている。

賊がいるというのに、街に出るのは危険なのかもしれない。



「アラン様?」

「サディルのニコル王女様もご一緒されます。案内も警備も万全で御座いますからご心配なきように、とも仰せで御座います」



使いが駄目押しするように言うので、エミリーもお願いの視線を送ってみる。

ニコルが一緒ならば警備も倍になり賊も攻撃しづらく、さらに楽しめる筈なのだ。


最終的にアランは、仕方あるまい、と言って了承してくれた。



「シャルルも一緒だ。良いな?」



と、何故か、そんな条件と一緒に――――




シリウスが迎えに来たので、シャルルを連れて馬車まで行く。

その途中の道で、アニスとリードが歩いてるのを見つけた。

二人ともどこかに出掛けるようで、小さな鞄を持っている。



「アニスさん!リードさん!」
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