シャクジの森で〜青龍の涙〜
呼び掛けると、二人は一緒に振り向いた。

アニスは驚きの表情をみせたものの「おはようございます」とにこやかに挨拶をし、リードはエミリーの背後を素早く見た後、無言のまま頭を下げた。



「アニスさんとリードさんも、街に行くのですか?」

「はい。彼が街の薬師の元に行きますので、私も一緒に」



ね?とアニスはリードの方を見て、ニコリと笑んで先を促す。と、リードは心底迷惑そうに顔を歪めた。

そのうんざりとした顔を見て、アニスがクスッと笑う。

その雰囲気が、何だかとても仲が良い感じに見えて、エミリーは嬉しくなってしまう。


やっぱりアニスはリードを気に入っているのだ。

前に“面白いお方”って言っていたのを思い出す。

リードの方は?と笑みながら彼を見ると、ちょっぴり頬を染めていた。

やっぱりそうなのだわ、と思いながら、にこにこと笑って見つめるエミリーの前に、リードはぶっきらぼうに鞄を差し出した。



「全く、貴女はいつもいつも気軽に人を呼び止めるんですね。“これを届けるように”とフランクさんに頼まれてるんです。暇で呑気な貴女とは違って、私達は忙しいのです」



30センチ四方くらいの四角い黒の鞄。

結構パンパンに詰まっていてとても重そうに見える。



「リードさん、それは、なにが入ってるんですか?」



詳しく聞けば、この国にはフランクの知り合いの薬師がいて、ギディオンにしかない薬剤を毎年この機会に届けているのだそう。

代わりに、この国にしかない薬剤を貰うそうで。

今年は、フランクが来られないためリードが代わりに、ということだった。



“彼は役目を負っておる”



そういえば。

アランの言ってたことは、このことなのかもしれない。

リードのもう片方の手は、地図らしきものを持っている。

初めての知らないお国、迷子にならないといいけれど・・・。

自身がちょっぴり方向音痴なエミリーには、他人事ではなく我が事のように思えた。

リードは大丈夫なのだろうか。



「そうなのですか。大切なお役目なのですね。不案内な他国ですから、じゅうぶん気を付けていってくださいね」



リードに近付き、ふわりと優しく微笑むエミリー。



「っ、ああ貴女はまた当たり前のことをっ。どうぞ構わずに早く散歩を続けたらどうですかっ」



そう早口に言って、リードは、手の甲で顔を隠しながら大きく一歩後退りをした。

その拍子にアニスの足を踏んでしまい、短い悲鳴と共に彼女の奇麗な顔が痛みの為に歪む。
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