シャクジの森で〜青龍の涙〜
眉を寄せつつグイとビアンカの身体を退け、アランはレオナルドの傍まで歩み寄り、谷底を確認した後に南の方を見やった。
この風の谷の向こう、城側の方角に、雪花の泉と神殿がある。
そこもここと同じく風はないが、霧に包まれることなく、神殿も朽ちることなく奇麗なままある。
それはもう初めて訪れたときよりずっと、遡れば父の代よりずっと、不気味なほど変わらずにある。
恐らく今年も何も変わらないだろう。
「ふむ。変わらず、か」
とてつもない大きな力を感じつつ、アランは谷を眺めた。
時折吹く強い風が騎馬マントをバタバタと煽っていく。
こちらには、こんなに風が吹いているというのに――――
「アラン様!!避けてください!」
不意にウォルターの叫び声が聞こえ振り返れば飛び来る矢が目に入り、アランは咄嗟に体を捌いて避けた。
間一髪に髪を掠めて飛んでいった矢は、谷底へと落ちていく。
「皆、剣を持て!」
何本もの矢が崖の上から降ってくる。
時折きらっと光る矢は木の陰から放たれており、フードを被った者の姿を見とめることが出来た。
「彼奴か――」
ビアンカは恐怖で動けないようで、そのまま立ち竦んでいる。
「ルドルフ殿、ビアンカ殿を馬車の中へ!」
アランは近くにいたルドルフにビアンカを任せ、素早く皆に命じながら、ひゅんひゅんと風切り音を鳴らして飛び来る矢を避けつつ隣を見た。
矢を避けて退くレオナルドが、崖を踏み外したところが目に入る。
ぐらりと揺れた体は制御しようにもなすすべなく、レオナルドは目を見開きながら落ちていく。
「くっ、レオ!!」
咄嗟に駆け寄り手を伸ばして掴んだレオナルドの腕を引っ張り力任せに空中から救い上げたアランの体は、反動と風のあおりを受け、空へと、投げ出された。
「アラン!!」
しりもちをついたレオナルドが叫びながら立ち上がる。
「アラン様!!」
崖っぷちから精一杯に伸ばしたウォルターの手が虚しく空を切る。
アランの体は、放物線を描きながら、ゆっくりと、霧の中に吸い込まれていった。
「アラン様ーー!!」
千切れんばかりのウォルターの声が、谷に、木霊した。
いつの間にか矢が止みしんと静まった空気を破るように、ビアンカの細い声がした。
「・・・何と言うことですの。今、何が起こりましたの・・・こんなこと、聞いてませんわ。こんなの・・嘘ですわ」
わなわなと座り込むビアンカをルドルフが支え馬車に連れ戻していく。
肩を震わせ腹ばいになったままのウォルターの襟を掴み、レオナルドは立ち上がらせた。
「ウォルター、何をしているんだ!しっかりしろ!探しに行くぞ!」
「ですが、あの谷は―――」
「それでも、行くんだ!!」
いつになく声を荒げるレオナルドの気迫を見、ウォルターはハッと我に帰った。
自分の部下の元に駆け寄り指示をしている。
「行くぞ!心ある者は、私に着いて来い!」
レオナルドは皆に命じると、唇を噛みしめながら馬に乗った。
この風の谷の向こう、城側の方角に、雪花の泉と神殿がある。
そこもここと同じく風はないが、霧に包まれることなく、神殿も朽ちることなく奇麗なままある。
それはもう初めて訪れたときよりずっと、遡れば父の代よりずっと、不気味なほど変わらずにある。
恐らく今年も何も変わらないだろう。
「ふむ。変わらず、か」
とてつもない大きな力を感じつつ、アランは谷を眺めた。
時折吹く強い風が騎馬マントをバタバタと煽っていく。
こちらには、こんなに風が吹いているというのに――――
「アラン様!!避けてください!」
不意にウォルターの叫び声が聞こえ振り返れば飛び来る矢が目に入り、アランは咄嗟に体を捌いて避けた。
間一髪に髪を掠めて飛んでいった矢は、谷底へと落ちていく。
「皆、剣を持て!」
何本もの矢が崖の上から降ってくる。
時折きらっと光る矢は木の陰から放たれており、フードを被った者の姿を見とめることが出来た。
「彼奴か――」
ビアンカは恐怖で動けないようで、そのまま立ち竦んでいる。
「ルドルフ殿、ビアンカ殿を馬車の中へ!」
アランは近くにいたルドルフにビアンカを任せ、素早く皆に命じながら、ひゅんひゅんと風切り音を鳴らして飛び来る矢を避けつつ隣を見た。
矢を避けて退くレオナルドが、崖を踏み外したところが目に入る。
ぐらりと揺れた体は制御しようにもなすすべなく、レオナルドは目を見開きながら落ちていく。
「くっ、レオ!!」
咄嗟に駆け寄り手を伸ばして掴んだレオナルドの腕を引っ張り力任せに空中から救い上げたアランの体は、反動と風のあおりを受け、空へと、投げ出された。
「アラン!!」
しりもちをついたレオナルドが叫びながら立ち上がる。
「アラン様!!」
崖っぷちから精一杯に伸ばしたウォルターの手が虚しく空を切る。
アランの体は、放物線を描きながら、ゆっくりと、霧の中に吸い込まれていった。
「アラン様ーー!!」
千切れんばかりのウォルターの声が、谷に、木霊した。
いつの間にか矢が止みしんと静まった空気を破るように、ビアンカの細い声がした。
「・・・何と言うことですの。今、何が起こりましたの・・・こんなこと、聞いてませんわ。こんなの・・嘘ですわ」
わなわなと座り込むビアンカをルドルフが支え馬車に連れ戻していく。
肩を震わせ腹ばいになったままのウォルターの襟を掴み、レオナルドは立ち上がらせた。
「ウォルター、何をしているんだ!しっかりしろ!探しに行くぞ!」
「ですが、あの谷は―――」
「それでも、行くんだ!!」
いつになく声を荒げるレオナルドの気迫を見、ウォルターはハッと我に帰った。
自分の部下の元に駆け寄り指示をしている。
「行くぞ!心ある者は、私に着いて来い!」
レオナルドは皆に命じると、唇を噛みしめながら馬に乗った。