シャクジの森で〜青龍の涙〜
3頭の馬に3人分の荷が分けて乗せられ、ぽくぽくと進んでいく。



「シャルル様、お元気でー」

「ペット様、また来てくださいねー」

「さようなら!」



城の皆からシャルルに声がかかる。

籠の中のシャルルは、それらの声にしっぽをふりふりと振って応える。


“行ってらっしゃい”より多い“さよなら”の言葉。

城にいたのはほんの少しの間だったけれど、シャルルはいつの間にか皆の心の中に溶け込んでいたよう。


エミリーは胸が熱くなるのと同時に、寂しくもなった。


その気配を感じ、アランはそっと抱き寄せる。


間もなく、シャクジの森の入口に辿り着き、リックが恭しく門を開ける。

エミリーとアランは、見送る皆の顔を順番に見た。



「行ってきます。メイ、ナミ」

「行ってらっしゃい、エミリー様。どうか、お体に気を付けてください」

「エミリー様、行ってらっしゃい。シャルル様もお元気で」



メイとナミが、笑顔で見送ってくれる。



「パトリック、留守を頼む」

「あぁ、任せておいてくれ。滅多にないことだ。ゆっくりしてくるといい」



そう言ってパトリックは、アランの肩を力強く叩いた。



手を振る皆に別れを告げ、シャクジの草原へ向かう。


大きな木の根元。

ほんの数日前にエミリーが懸命に叩き壊した箱の惨状は、まだそのままだ。



「これを・・・君が壊したのか」

「そうなの、アレで壊したの。すごいでしょう?」



うふふと笑って傍に転がった石を示せば、アランとウォルターが同時に呻き声を上げた。



“いざとなると、女性という者は、大変に怖ろしいものだ”



アランがひっそりそう思ったのは、内密なこと。



狭間の入口に入り、月の雫が示す方へ歩く。


携帯電話の音。

道路を走る車の音や人の声。

懐かしい音がたくさん聞こえてくる。


遠くに四角い窓枠が見えてくると、エミリーは駆けだした。

窓の中に、パパの姿が見えるのだ。



「パパ!エミリーです!シャルルを連れてきたわ!」



見開かれる瞳がエミリーとその背後を確認し、開いた口がぱくぱくと動く。



「い・・・いらっしゃいませ。―――今、妻を呼んで参ります。どうぞ、どうぞ―――」





普段は、とても物静かなエミリーの実家。

二階にあるジャックの書斎は、一息に人と物と馬で一杯になり、呼ばれて上がって来たエレナは目を丸くして右往左往し始めた。


瀟洒な作りのこの家は、この日から数日の間、賑やな声が絶えることがなかった。





―――おしまい―――
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