シャクジの森で〜青龍の涙〜
危険を感じて逃げ出そうとするのをなんとか捕まえて、落ち着かせるように「シャルル、大丈夫よ・・・」と語りかけながら、背中をひと撫でしているうちに、アランの手とハサミが目にもとまらぬ速さで動いていた。


いつの間にか紐がパラリ・・と下に落ちていて、外れた月の雫はアランが受け取ったよう。


紐を切った音もせず、シャルルの毛も1ミリも切れた様子がない。

シャルルを押さえておく必要などなかったかのよう。



「アラン様?もしかして、もう、すんだのですか?」



アメジストの瞳を瞬かせながらそう訊ねれば、アランは「あぁ」と返事をしながらハサミを裁縫箱に戻している。

本当に瞬時のことだけれど、普段から鍛えているアランにとっては至極当然のことで、エミリーが何を驚いているのかさっぱり理解できないよう。

今度はアランが首を捻って聞く番だ。



「ん・・・どうかしたか?」

「ぁ、えっと・・なんでもないです・・」



王子としての政治手腕だけでなく剣士としても一流と恐れられているアランの腕を、初めて垣間見た瞬間だった。

ほとんど見えてなくて、まったく分からなかったけれど、すごいという事だけはエミリーにも分かった。

普段にないものが見られて、胸がドキドキしてしまう。



―――わたしは、ほんとうに、すてきなお方を旦那さまにしたんだわ・・・。



静かな部屋。

あまりにも物音がしなくて、胸の鼓動がアランに聞こえてしまいそうで、ますます高鳴る。

こっそり胸をなだめつつ、エミリーがリボンを首に巻いてシャルルを籠に戻していると、部屋の灯りがおとされていき、ソファの傍のだけが残されていた。


そこに、アランが座って待っているので、エミリーは隣にちょこんと座った。

心臓は、まだおさまっていない。



「・・・アラン様。ありがとうございました」

「これは、君に預けておく。あちらに戻るまで、仕舞っておくが良い」



アランの掌の上で、月の雫がキラリと光っている。

それを受け取ると、てのひらの中でそれが一層強い光を放ち、エミリーは思わず叫び声を上げて目を瞑った。

それはまるで満月の輝きのように、部屋の中を照らす。



「・・・これは、君の力に反応しているのだろう。私もリンク王の子孫として、それを光らせることは出来るようだが、やはり君ほどではないな」


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