シャクジの森で〜青龍の涙〜
そう言って、アランが石の輝きを覆い隠すように掌を重ねると、月の雫は徐々に光を弱めていき、やがて元の色に戻った。


てのひらの上に艶を増した石が転がっていて、気のせいか少し大きくなったように感じる。

エミリーは何処に仕舞っておこうかと暫く考えた後、ふと思いついて、鏡台の引き出しの中から銀の小箱を取り出してきた。



赤い宝石がぐるりと埋め込まれた綺麗な蓋を開ければ、ふわふわの布の上に紋章付きの立派な指輪が入っている。

これはアランが騎士の誓いをした際に“私の命だ”とエミリーに渡したもので、なくしてはいけないとても大切なもの。


その横に、月の雫を並べて置いた。

この箱は、メイも決して触れることがないもの。これで、誰の目につくこともない。



「エミリー・・・今宵、私は、傍に居ても良いか・・・?」

「え・・・?」

「私は父君と相談し、世界の入口を塞ぐ事を決めた。無論、暫くの間だけだが、これで完全にシャルルは自力で戻る事は出来ぬ。君は、私を、許してくれるか?」



君に相談せず酷い事をした。

そう言って、アランは辛そうに瞳を細めた。



―――手が震えていたのも、様子がおかしかったのも、ずっとこのことを考えていたからなのね・・・。



「アラン様・・・?わたしは、アラン様を信じてます。だから、そんなことを言わないでください。入口を塞いでしまったことも、わたしにはわからない理由があるのでしょう?」



エミリーはふわりとアランの首元に腕をまわして抱きつくと、耳元で“いつまでもわたしの傍にいてください”と囁いた。

そして、その意外な行動と言葉に驚いて固まっているアランの精悍な頬を包み、“愛しています”との思いを込めて、そっと唇を重ねた。

何度もついばむようにして、重ねていく。



エミリーが自分からキスをするのは、これが二度目。

以前は、この世界に別れを告げたあの時。

あのときはとても哀しいキスだったけれど、今は違う。

愛を伝えるための、前向きなもの。



暫くされるがままになっていたアランだったが、体の芯に灯が点ったよう。

ふわふわの髪に手を差し入れ、背中に腕をまわし、動かないようがっしりとやわらかな身体を捕まえた。



「何があっても、離さぬゆえに―――逃がさぬ・・・良いな。覚悟せよ」


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