シャクジの森で〜青龍の涙〜
まぁるい頬をちょっぴり赤くして、ニカニカと笑う料理長。


「あま~いアラン様をご覧になっているのは、エミリー様だけだからなぁ・・・二人っきりの時なんか、どんな表情をなさるのだろうなぁ」



うんうん、と訳知り顔で頷いてニカニカと笑う料理長に、エミリーは首を傾げつつ曖昧な笑みを返す。



「え・・・っと、そんなことはない・・と、思うわ?」

「またまたぁ、エミリー様はぁ。まぁ、いいです、いいです。あなた様はそのままで」



そう愉しげに言いながら、奥に引っ込んでいく料理長のふくよかな背中を見ながらエミリーは考える。



――あま~い、アラン様に、叱らないアラン様??――



やっぱりどう考えても、料理長の言うような風には思えない。


だって、そうなのだ。

二人っきりでいても表情はいつもあまり変わらないし、少し考えたただけで、叱られたあんなことやこんなことが、簡単に思い出せてしまう。

とても厳しい顔付きで、“君は何をしておる”とか“全く、君からは目が離せぬ”とか“それは、駄目だ”とか、それはもういろいろ・・・。

それをとても低い声で言われてしまったときは、氷の王子様と呼ばれるだけあって、とても迫力があって怖いのだ。

そのあとに、必ず、逞しい腕にすっぽり包まれてぎゅぅと抱き締められたり、あたたかい掌で頬を包まれてしまうのだけど。



「あれは、やっぱり、怖いお顔で叱りすぎたから慰めてくれているのよね・・・?」


甘いわけではないと思うわ。

と、エミリーがぶつぶつと呟いていると、“シャルルフード”がこんもり盛られたお皿が差し出された。



「エミリー様。はい、これをどうぞ。今日は、魚をメインに作ってみました。どうですか?」

「ありがとう。シャルルはお魚が好きなの。よろこぶわ」



エミリーが受け取ろうと手を出すと、シリウスの腕にすっぱりと遮られた。


「エミリー様、それは私が部屋までお持ちします。料理長、皿を此方に」



シリウスに部屋まで運んでもらったエミリーは、ついでに籠をテラスに出してもらった。

そろそろメイたちがお部屋の掃除を始める頃。

シャルルがゆっくりできないし、メイたちもおっかなびっくりな感じで、毎回シャルルのいる籠を避けていた。



「シャルルは、こんなに大人しくて、かわいいのにね?牙がいけないのかしら?とても小さくて、危険なんてないのに――」



むしゃむしゃと美味しそうにフードを食べるシャルル。

動くたびに首元につけた鈴がちりんちりんと鳴る。

これはつい昨日に、アランが“いつでも何処にいるか、分かるほうが良い”と言ってつけたもの。
< 33 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop