シャクジの森で〜青龍の涙〜
少しでも多く周りの景色を見ておこうときょろきょろするエミリーを、アランがゆっくりと導いていく。
柔らかな草に足を取られながらも踏んでいくと、シャクジの花の群生地に辿り着いた。
透明な水を湛える泉は変わらずにこんこんと湧き出ていて、雪解け水が作った小さな川からもさらさらと水が注ぎ込み、水面は常にゆらゆらと揺れ動いている。
そのまわりで、あれほどに咲き誇っていた花達は少しだけ開いている程度で、多くの茎は大きな蕾をもたげてまっすぐに立っていた。
月の光は傍らにある大きな木に阻まれて届かず、泉の周りは暗い。
その反対側にあるシャクジの花達は蕾が開いていて、大きな花弁は水に濡れてキラキラと輝いていた。
上を仰ぎみれば、木の葉から水がぽたりぽたりと滴り落ち、せっせと花に水をもたらしている。
木の葉の先に溜まる水滴が月明かりを受け、全体をキラキラと輝かせる。
葉から落ちる雫は落ちた刹那に弾け飛び、最後の輝きを放っては消えた。
あちらこちらでそれは光っては消えていて、まるでイルミネーションのような煌めきを放つ。
見惚れていたその視線を下に移せば、花の茎に隠れるようにして、大きな箱のようなものが設置されているのが見えた。
そこは、エミリーが倒れていた場所であり、世界の狭間の入り口でもある木の根元。
そこをじっと見つめていると、アランに預けた小さなてのひらが、痛いほどにぎゅっと握られた。
見上げれば物言いたげなブルーの瞳がエミリーをじっと見下ろしている。
平気です、の想いを込めてにこりと微笑んで見せると、少しだけ表情が和んだように見える。
けれど、手は強く握られたままだ。
「いつか、かならず、連れて行ってください」
じっと見つめてお願いすれば「無論だ」と決意に満ちた瞳と強い口調が返ってきた。
そして、華奢な身体が壊れるほどの強い抱擁を受ける。
痛いほどに伝わってくるアランの気持ち。
それがとても嬉しくてありがたくて、エミリーも逞しい背中をぎゅっと抱きしめ返した。
そう、いつか必ずこの箱を壊して、アランと一緒に故郷に行くのだ。
シャルルを連れて。
きっと、かならず―――
「・・・エミリー、月が動いた。そろそろ始まるぞ」
不意に身体を離され、言われた方を向けば、動いた月は、泉のはしっこに映っていた。
その反射する光が、木々の葉と傍らに咲く花をほのかに照らし出す。
ゆっくりと、原が暗から明へと変わっていく。
泉の水面がゆらゆらと輝き、美しく見え、これだけでも十分素敵な景色だ。
けれど―――
「なにが、はじまるんですか?」
「そうだな―――少々待っておれ」
アランは着ていた上着を脱ぎ、少し小高い場所に広げた。
その上にエミリーを座らせ、自らは横に腰をおろした。
目線の下に、花の群れが広がる。
「ここから、見ているが良い」
柔らかな草に足を取られながらも踏んでいくと、シャクジの花の群生地に辿り着いた。
透明な水を湛える泉は変わらずにこんこんと湧き出ていて、雪解け水が作った小さな川からもさらさらと水が注ぎ込み、水面は常にゆらゆらと揺れ動いている。
そのまわりで、あれほどに咲き誇っていた花達は少しだけ開いている程度で、多くの茎は大きな蕾をもたげてまっすぐに立っていた。
月の光は傍らにある大きな木に阻まれて届かず、泉の周りは暗い。
その反対側にあるシャクジの花達は蕾が開いていて、大きな花弁は水に濡れてキラキラと輝いていた。
上を仰ぎみれば、木の葉から水がぽたりぽたりと滴り落ち、せっせと花に水をもたらしている。
木の葉の先に溜まる水滴が月明かりを受け、全体をキラキラと輝かせる。
葉から落ちる雫は落ちた刹那に弾け飛び、最後の輝きを放っては消えた。
あちらこちらでそれは光っては消えていて、まるでイルミネーションのような煌めきを放つ。
見惚れていたその視線を下に移せば、花の茎に隠れるようにして、大きな箱のようなものが設置されているのが見えた。
そこは、エミリーが倒れていた場所であり、世界の狭間の入り口でもある木の根元。
そこをじっと見つめていると、アランに預けた小さなてのひらが、痛いほどにぎゅっと握られた。
見上げれば物言いたげなブルーの瞳がエミリーをじっと見下ろしている。
平気です、の想いを込めてにこりと微笑んで見せると、少しだけ表情が和んだように見える。
けれど、手は強く握られたままだ。
「いつか、かならず、連れて行ってください」
じっと見つめてお願いすれば「無論だ」と決意に満ちた瞳と強い口調が返ってきた。
そして、華奢な身体が壊れるほどの強い抱擁を受ける。
痛いほどに伝わってくるアランの気持ち。
それがとても嬉しくてありがたくて、エミリーも逞しい背中をぎゅっと抱きしめ返した。
そう、いつか必ずこの箱を壊して、アランと一緒に故郷に行くのだ。
シャルルを連れて。
きっと、かならず―――
「・・・エミリー、月が動いた。そろそろ始まるぞ」
不意に身体を離され、言われた方を向けば、動いた月は、泉のはしっこに映っていた。
その反射する光が、木々の葉と傍らに咲く花をほのかに照らし出す。
ゆっくりと、原が暗から明へと変わっていく。
泉の水面がゆらゆらと輝き、美しく見え、これだけでも十分素敵な景色だ。
けれど―――
「なにが、はじまるんですか?」
「そうだな―――少々待っておれ」
アランは着ていた上着を脱ぎ、少し小高い場所に広げた。
その上にエミリーを座らせ、自らは横に腰をおろした。
目線の下に、花の群れが広がる。
「ここから、見ているが良い」