シャクジの森で〜青龍の涙〜
「モルトさん?大丈夫ですか?」

「いや、はい、今日は暑いですなぁ」

「え?・・・あの、少し顔色が悪いわ。また、腰が痛むのではないですか?フランクさんに」

「っ、いえ、いえ、平気です。何でもありません。ほれ、この通り」



モルトはすくっと立ち上がり、そのままくるっとまわって見せた。



「そう・・・それなら、いいのですけど―――あ、座ってください」


とんとん・・と、指先でベンチを叩いてアピールするエミリーに対し、モルトは首を横に振って丁重に断った。



「いえいえ、もう仕事に行かねばなりませんので・・・今座ると、動けなくなりそうですから」



そう。いろんな意味で、動けなくなりそうなのだ。

いろいろ想像してしまい、背負い籠を拾うモルトの体が、ぶるっと震える。

すると、エミリーはちょっぴり寂しそうな笑みを見せていた。



「そうなのですか。残念だわ。もう少し、お話したかったわ」

「はい、私も、残念ですが―――いや。仕事をしないと、アラン様に叱られてしまいますからな」



アッハッハ、と大きな声で笑って道具籠をよいせと背負いながら、モルトは、さっき訊ねようとしていたことを、思い出した。




「そうそう・・時に、エミリー様」と話しかければ、煌くアメジストの瞳が真っ直ぐに向けられる。



初めて会った時にも綺麗な娘だと思ったが、その時よりも倍増して見えるのは、決して気のせいではない。

うっかり声を失いそうになるのを叱咤し、モルトは言葉をつづけた。



「・・・そろそろ、行事の時期ですな。準備は進んでおられますか?」

「えぇ、わたしのするべきことは、すべて教わったの。あとは、その日を待つだけになったわ」

「出発の日は、明後日でしたな。エミリー様ご不在の間は、塔の者たちはさぞかし寂しい思いをするでしょうな・・・。いや、この私も寂しいのですが・・・当日はお見送り出来ませんが、どうぞ、お気を付けて。お帰りを、この短い首を長~くして、お待ちしてますから」



モルトは伸びあがって首を長くして見せて、くしゃりと笑っておどけた。

それを見て、エミリーはクスクスと笑う。



「モルトさんたら、可笑しいわ」


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