シャクジの森で〜青龍の涙〜
「エミリー様、お支度はこれでよろしいですか?」
朝日の差し込む部屋の中、メイとナミがいそいそと歩きまわる。
エミリーは、部屋の中を見廻して、ふとある物を入れていないのに気がついた。
そういえば。
持ち歩いて無くしてしまうのも困るけれど、置いたままにしておくのも不安に思える。
何しろ、物は、“アランの命”と“月の雫”なのだ。
肌身離さずとはいかないまでも、いつでも目の届くところに置いておきたいと思う。
鏡台の引き出しから銀の小箱を取り出して、布でくるんでメイに手渡した。
「とても大切なものなの。中身は、メイなら知っているでしょう?」
「はいっ、勿論です!心してお荷物に入れておきます!」
神妙な面持ちで、直立不動のままに返事をしたメイは、ナミと二人して、あーだこーだと言いながら小箱を仕舞う鞄を物色している。
帽子やドレスの入った箱、アクセサリーの入ったトランク、たくさんの荷物が所狭しと部屋の中に並んでいる。
そう。
今日は旅立ちの日。
行事の始まりの日でもあるのだ。
全ての荷物を点検し終えたメイが、ふぅ・・と息を吐きながら額を拭う。
「エミリー様、準備万端整いましたわ。銀の小箱は、エミリー様の手持ちの鞄の中に入れておきました。それでよろしいですか?」
「えぇ、いいわ。ありがとう、メイ。ナミも、ご苦労様。私の荷物はいいけれど・・・二人のものは、もう運び込んであるの?」
「はい。ご心配ありません。昨日の内に、専用の荷馬車に入れてありますから」
「私たちの荷は、エミリー様に比べれば、少ないですから。準備は早いのです」
口々に言う二人の瞳は、キラキラと煌く。
エミリーには勿論のこと、二人にとっても初の外国なのだ。
昨日の夜は、お互いの部屋を訪ね合い、持ち物の最終点検をし合ったのだと、嬉しそうに話してくれる。
「では、エミリー様。お荷物は、馬車の中に運び込みますわ。・・・お願いしま~す!」
二人でせっせと出す箱や鞄を、使用人たちが次々に運んで行く。
全てを部屋の中から出したメイとナミは、今度は、馬車の方へと走って行った。
荷物によって、上に置くものと下に置くものがあり、それを指示するためらしい。
忙しそうだけれど、二人の表情はとても晴れやかだ。
騒がしさが消えてしんと静まる部屋の中、エミリーはいつも通りに、籠からシャルルを出した。
「シャルル、あなたも支度をしなくちゃね」
エミリーはそっと背を撫でて落ち着かせてから、真新しい手持ち籠の中に入れた。