シャクジの森で〜青龍の涙〜
二個のペーパーウェイトをシリウスに託し、エミリーは買い物を楽しむことにした。

腰にまわっている手に重ねて、無言のままにっこり笑ってアピールすると、アランは「仕方あるまい」と呟くように言って、腰から離して小さな手を握った。


行動範囲が広がって、あちらこちらに自由自在に動くエミリー。

本当に色々なものが売られていて、見るだけで楽しくてたまらない。


“風の国必需品!”の文字を見つけては、「あれは、なんですか?」と聞き、カタカタと動く小さなカラクリ人形を見つけては、「これ、面白いわ!」と興奮する。


立ち止まったり、急に方向転換したりと、何とも読めない動きをする。

そんなエミリーを、合う売り場へと上手くコントロールしながら、じっくりとアランは付き合う。


一つの棚の前で立ち止まるか細い身体を、すっぽりと覆うようにアランが立つ。

まるで、誰の目からも隠すように。

腕の中に囲われたエミリーが嬉しげに何かを話しかければ、それに優しく受け答える。


アクセサリーの棚に移動すれば、そこでは背後から手を伸ばして選び取ったものを、さりげなく身に着けて何事かを囁いている。

それを聞いて頬を染めて俯くエミリーは、なんとも愛らしい。


そんな二人の姿を見られるのは初めてなことで、皆は自分の買い物も忘れて見惚れてしまっていた。



「ね、見て。アラン様、とても素敵ねぇ」

「まぁ本当。でも、絶対エミリー様限定ですわねぇ」

「そうですわね。他のお方だとこうはいきませんわよ。だって、氷の王子様ですもの」

「でも、あんな風に愛されるなんて、ほんと、羨ましいですわぁ」



キャーッ!と囁くような悲鳴にも似た歓声が上がる。

ため息交じりの内緒の声で交わされるメイドたちの会話。


メイとナミは、にこにこしながらそれを聞いていた。

二人以外は、侍女長が選んだえりすぐりのメイド達。

若いけれど仕事も出来、気も良い子たちばかりだ。


二人は甘いアランの姿を見慣れているためにそれ程には思わないけれど、改めて素敵だなぁ、と思っていた。


妃の買い物に付き合う氷の王子の姿。

頬を染めるメイドたちからは感嘆のため息が漏れ、そんなメイドたちを見た兵士たちからは、お手本とされた。

どうするのか、メモまで取る者もいる。

でもまあ、“ステキ”なんて声が上がるのも“アランだから”なのだけれど。



誰もが認める甘く楽しい時間をエミリーが過ごしていると、館長が店の中に姿を現した。
< 90 / 246 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop