シャクジの森で〜青龍の涙〜
アラン達の姿を見付け、四角の飾りをキラキラピカピカと光らせながらタタタタタと走ってくる。



「いかがですかぁ、我が店は?」



あ、館長さん!と嬉しげに声を上げるエミリーを背後にそっとまわし、アランは館長と向き合った。



「ヘルマップ、なかなか良い店だ。道中、皆が買い物に寄れるのはここだけゆえ、其々が有意義にしておる。それに、妃も大変に楽しんでおる」

「それは、良う御座いましたぁ」



毎年昼食には寄るけれど、店に来たのはアランも初めてのことだった。

何故今年は寄ったのか、それは、言うまでもない―――



「ですが、王子様がそんな態度を取られるとは、このヘルマップ、一ミリも存じませんでしたぁ!くうぅぅ~舞いのイメージがむくむくと湧きあがって参りますぅ。・・・が、そろそろ出発のお時間で御座いますぅ・・・」

「・・・次回に、見せよ」

「承知しましたぁ・・覚えておきますぅ」



と、がくり・・と肩を落として、あからさまに残念なそぶりを見せ、ヘルマップ館長は一行を玄関まで見送った。

一人一人に声を掛けて、記念品ですぅ、今年限りですぅ、ど~ぞ~、とまるでテッシュ配りのように小さな袋を渡している。

どうやら、これも、“ギディオン王国王子様ご成婚記念!”に関連するイベントらしい。

小袋に、デカデカと書かれていた。


メイは、ありがとうございます!と嬉しげに受け取って、これもジェフにあげようかしら、なんて呟いている。

頭の中は、彼氏であるジェフでいっぱいのよう。



「またのご来館をお待ちしておりますぅ!!きっとですよぉ!お気を付けてぇ!」



館長は、姿が見えなくなるまで、両手を大きく振りつづけていた。




広場に戻り、出発時よりも僅かに増えた荷物を仕舞い、皆が其々の乗りものに分かれて行く。

シャルルはアニスが抱き抱えて馬車に乗り込み、メイは最初と変わらずに白馬車に乗り込む。

籠は移動されたけれど、メイが王子妃の馬車に乗ることだけは、変更されなかったのだ。


エミリーは王子の馬車でクッションに埋もれるように座り、アランが乗りこんでくるのを待つ。

外から、ウォルターや各小班のリーダーたちに指示をする声が聞こえてくる。

それが途切れ、一際に通る声が出された。



「出発!」




「おー!!」と兵士たちから一斉に声が上がり、再び、馬車が動き出した。



長い車列がゆっくりと、進んでいく。


その様子を、いくつかの人影が、ひっそりと見つめていた―――
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