シャクジの森で〜青龍の涙〜
先に歩くアランのうしろを、つかず離れずの位置で、エミリーは楚々とついていく。
手もつないでいなければ腕にも掴まっていない。
今二人は、珍しくも完全に離れた状態でいた。
言われた通りに、手の届く範囲内にはいるけれど。
アランは一台の馬車のところまで来ると、その扉付近でぴたりと止まった。
エミリーが背伸びをしてその扉をノックすると、中からは、『はい・・どうぞ』と小さな声が聞こえてきた。
そっと開けると、まず、籠の中で大人しく寝そべるシャルルの姿が見えた。
むくっと体を起こして「ニャー」と鳴き、しっぽをふりふりと振って、なんだかとってもご機嫌な様子だ。
小さな体は、揺れる車内でも対応出来ているよう。
ホッとしながら視線を移せば、今度は、椅子にぐったりと寝そべる姿が目に入った。
車酔いしたのは、リード・・・ではなく、アニスだったのだ。
やっぱり、旅は病み上がりにはキツかったのだと思える。
エミリーが急いで中に入り込んでアニスの手を握ると、今にも消え入りそうな声が返ってきた。
「アニスさん、大丈夫ですか?」
「はい・・なんとか・・・薬も頂きましたし・・・もう大丈夫ですわ」
薬のお陰か、もうそれ程に顔色は悪くないけれど―――
「王子妃様、馬車を止めてしまい、申し訳御座いません・・・もう、大丈夫ですから、先に進めてくださいませ」
アニスは身体を起こし、ハンカチで口元を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。
けれど、やっぱりまだふらふらしている。
「アニスさん、無理をしてはいけません」
「いいえ。私は、もう、ここで下りますわ。これ以上迷惑をかけられませんもの」
「国は近いのですか?」
360度広がる荒野。
どう考えても、一番近いのは、遠くに見えるヴァンルークスのみで、アニスの国が何処にあるのか分からないけれど、歩いていけるほど近いとは思えなかった。
「あ・・・いえ」
「ならばだめです。下りることは、わたしが許しません。このまま一緒に風の国に行きます。いいですね?」
「・・・はい、王子妃様」
「少し、外の空気を吸った方が良いわ。リードさんが戻るまで、このまま、扉を少し開けておきましょう」
申し訳御座いません・・とひたすら謝るアニスを椅子に寝かせて、エミリーはアランの傍に戻って、背中側にまわった。
アランは、暫く無言のまま、椅子の上に寝るアニスをじっと見つめている。
その瞳は、鋭い。
「―――馬車に、戻る。しっかりついて参れ」
「はい」
手もつないでいなければ腕にも掴まっていない。
今二人は、珍しくも完全に離れた状態でいた。
言われた通りに、手の届く範囲内にはいるけれど。
アランは一台の馬車のところまで来ると、その扉付近でぴたりと止まった。
エミリーが背伸びをしてその扉をノックすると、中からは、『はい・・どうぞ』と小さな声が聞こえてきた。
そっと開けると、まず、籠の中で大人しく寝そべるシャルルの姿が見えた。
むくっと体を起こして「ニャー」と鳴き、しっぽをふりふりと振って、なんだかとってもご機嫌な様子だ。
小さな体は、揺れる車内でも対応出来ているよう。
ホッとしながら視線を移せば、今度は、椅子にぐったりと寝そべる姿が目に入った。
車酔いしたのは、リード・・・ではなく、アニスだったのだ。
やっぱり、旅は病み上がりにはキツかったのだと思える。
エミリーが急いで中に入り込んでアニスの手を握ると、今にも消え入りそうな声が返ってきた。
「アニスさん、大丈夫ですか?」
「はい・・なんとか・・・薬も頂きましたし・・・もう大丈夫ですわ」
薬のお陰か、もうそれ程に顔色は悪くないけれど―――
「王子妃様、馬車を止めてしまい、申し訳御座いません・・・もう、大丈夫ですから、先に進めてくださいませ」
アニスは身体を起こし、ハンカチで口元を押さえながら、ゆっくり立ち上がった。
けれど、やっぱりまだふらふらしている。
「アニスさん、無理をしてはいけません」
「いいえ。私は、もう、ここで下りますわ。これ以上迷惑をかけられませんもの」
「国は近いのですか?」
360度広がる荒野。
どう考えても、一番近いのは、遠くに見えるヴァンルークスのみで、アニスの国が何処にあるのか分からないけれど、歩いていけるほど近いとは思えなかった。
「あ・・・いえ」
「ならばだめです。下りることは、わたしが許しません。このまま一緒に風の国に行きます。いいですね?」
「・・・はい、王子妃様」
「少し、外の空気を吸った方が良いわ。リードさんが戻るまで、このまま、扉を少し開けておきましょう」
申し訳御座いません・・とひたすら謝るアニスを椅子に寝かせて、エミリーはアランの傍に戻って、背中側にまわった。
アランは、暫く無言のまま、椅子の上に寝るアニスをじっと見つめている。
その瞳は、鋭い。
「―――馬車に、戻る。しっかりついて参れ」
「はい」