遊びじゃない
私が目の前の枝豆を弄んでいるうちに、会計も済ました男は私の鞄を持って立ち上がる。
「あ、お金…」
「いいよ、今日は。いつものお礼、って全然足りないかもしれないけ
ど。」
言いながらもう一方の手で、椅子に沈んだままの私を引っ張り上げる。
足取りを見れば、完全に出来上がっている私の後姿に店員さんの威勢のよい「ありがとうございました~」が響く。
月曜日なのに、安くて美味いと評判の店内はほとんどスーツ姿のおしさんたちで埋め尽くされていて、その隙間をゆうにもたれかかる様にして通りのれんをくぐって。
「あ~…、気持ちいい。」
程よく火照った頬を撫でる冷気に思ったよりも大きな声が出て、口を押さえながら目を見張る。
「よかった。まおちゃん、なんか元気ないみたいだったし。」
ニコニコと笑う男は、その理由を聞こうとはせず他愛もない世間話にいやな顔せず付き合ってくれる草食系で。
麻生さんと食事した時みたいにドキドキの欠片も芽生えない。
それに何より、こいつのタイプにはまってない私に手をだすはずもなく。
ゆうと飲むのも悪くないな、と改めて思う。