遊びじゃない
「ごめん、まおちゃん。遅くなって…」
安い、美味いが身上の煙で充満した焼き鳥屋のカウンターで、そろそろ顔を覚えてくれた威勢のいいおっちゃんに2杯目のビールを注文したところ。
軽く息を切らせながら、コートも羽織っていない草食系は申し訳なさそうに右隣に腰掛ける。
「別に走ってこなくていいってば。」
煙の向こうのおっちゃんに、ゆうの分のビールも追加注文しながらコートと鞄を受け取って私の左隣に重ねて置く。
何度か通っても私以外の若い女子に出会ったことのないここでは、モチロン鞄を置く場所もコートを掛ける場所もあるわけなく、カウンターの一番端である私の左の席に置くことになるんだけど。
…毎回ずっしりと重い鞄に、こんなに何を持ち歩いているのかと疑問に思う。
「…ねえ、仕事持ち帰ってるの?」
ネクタイを緩めながらふぅっと一息ついているゆうの顔を見る。
長めのくせっけ前髪と黒縁眼鏡で簡単には表情が伺えなくて、これじゃあ営業なんて向いてないんじゃないかと今さらながら心配になる。