*Love not to arrive*

始まり




ぬぅっと、闇から引き上げられる感覚。
その感覚は、何回味わっても気分のいいものではない。
そして誰に起こされた訳ではないが、自然に目が覚めた。
目に入るのは、見慣れた物となった無機質な白い天井。
恐ろしいほどに平坦で、吐き気がする。




「……最悪」


私の声に反応したのか、ピロリン、という音で部屋中のコンピュータが起動する。
コンピュータが発するエメラルドグリーンの光が部屋を満たした。

…………改めて見ると、あり得ない量の機器。

『おはようございます、恭霞さま』

ホログラムで映し出される、誤った字。
私は恭夏。
霞なんて似合わない。

まぁ、何を言っても変わるわけない。
ここは檻。
ただの人間を閉じ込めるための籠なのだから。





ほんの2ヶ月前まで普通の生活を送っていた中学生。
いきなり薬を嗅がされて拉致、からの監禁。
確か、習い事があって。
間に合いそうにないから裏道を使った。
いつもよりホームレスが心なしか多くて、薄暗かった。




――――習い事って、なに?

あれ、分かんない。

多分、昔からしてた。
お母さんが、よく、話してて。
それで、えっと。




だめだ。
こんなことなんてしょっちゅう。
恐らくあのときの薬の副作用。
欠片は残ってるのに、足りないピースがあまりにもぼんやりしている。

『恭霞さま、朝食は何になさいますか』

「……パン、スープ、ミルク」

『了解しました』

「………はぁ、」

起動中を示す光を発しながら稼働する加熱機。
その電子レンジから、解凍された品々が出てくる。
これが私の朝食。
この味気なさにも、もう慣れた。





「………いただきます」

物体を咀嚼(そしゃく)し、飲み込む。
時々聞こえる衣擦れの音や咀嚼音と共に、私の一日は始まっていった。



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