*Love not to arrive*
『本日から監視員がつきます』
「…………誰?」
『朝霧 楓監視員 24歳』
「あさぎり、かえで………?」
人工音声が伝える名前は、何となく懐かしい感じがした。
どこかで聞いた、どこかで紡いだ名前。
「そんなわけ、無いよね………」
朝霧の〝霧〟と誤植の恭霞の〝霞〟。
どことなく繋がりを感じてしまう。
そんなもの、あるはずないのに。
春の山にかかる霞と、地表を覆う霧。
字も似てるし、響きも和風。
ほら、同じじゃない?
なんて、こんなこと考えても意味がないなんて、そんなこと分かってるのに。
「…………本でも、読もうかな」
ベッドに腰掛け、棚から分厚い本を取り出す。
ずっしりとくる重量に、一瞬腕がよろめく。
タブレットもあるけど、何となく紙の方が本を読んでいる気分になる。
することがないから余計な事まで考える。
ならすることをつくればいい。
暇な軟禁生活で本の虫になり、本の世界に没頭するのもうまくなった気がする。
栞(しおり)の挟んであるページから2ページほど前に戻って、ゆっくりと文字を目で追った。